はじめに
「弁護士に相談するほどの話なのか分からない」「こんなことが起こった」という相談をよく受けます。
トラブルの原因の大半は、契約書をよく読まず、契約の内容を把握できないまま、契約書にハンコを押してしまっていることに原因があります。
だますなんて簡単
最初に言っておきますが、契約書をよく読まない人をだますことなんて、簡単です。
というか、世の中の詐欺の大半は、「きちんと契約書を読まない人」を上手くスクリーニングして(あぶりだして)、お金を支払わせるように、実に上手に計画されています。
最も重要な自衛策
契約書の中身で相手をだますことは、簡単ではありません。簡単なのは、契約書を読まない、契約内容をきちんとチェックしない人をだますことなのです。
だから、まずは契約書・契約内容をきちんとチェックするようにするだけで、十分自衛策にはなるのです。
契約書を読む視点
きちんと契約書を読んだところで、ほとんど中身は分からないかもしれません。
- 期限の利益の喪失
- 債務不履行
- 帰責性
- 善管注意義務
契約書には、様々な法律用語が出てきます。これをいちいち調べていたら大変です。
安心してください
細かい部分をチェックする意味は、そんなにありません。
というか、ほとんどの契約書は、一般的な契約書の型があり、それに基づいて作られているため、そんなに人をだませるようにはなっていません。
『消費者契約法』なども守ってくれる
さらに、あまりに不当な契約条項については、『消費者契約法』などで、条項自体が無効とされる場合があります。
だから、契約を恐れたり、契約書を読むのを恐れる必要はありません。
契約書のチェックポイント
一番大切なポイントは「何が起きたらどうなる」
大事なことは、「何が起きたらどうなる」ということが、網羅されているかどうかです。
これが丁寧に、穴がないように書かれていればいるほど、契約者にとって、そんなに心配のない契約書になっています。
次に大切なポイントは「異常事態が起きたらどうなる」
双方が想定できないようなトラブルが起きた場合に、どう扱うかについても、丁寧に・公平に書かれていたら、それは良い契約書です。
トラブルが大きくなるのは、契約書を受け取った側にとって、予想外の事態が起きた場合です。
よくある文言としては、「協議の上決定する」というような文言があります。
ただ、これでは解決しないのは、容易に想像できるでしょう。泣き寝入りするか、裁判するしかないような場合が少なくありません。
契約書の中の罠
さきほど、『 そんなに人をだませるようにはなっていません』と書きました。
しかし、気を付けなければなりません。やっぱり、契約書の中には、罠がいっぱいあるのです。
悪人ほど、上手に契約書を作る
契約書をオリジナルで作るとしたら、そこには様々な悪意がある場合も少なくありません。
むしろ、自分に有利な内容を上手に隠した契約書にしたいからこそ、お金をかけて丁寧に作るという側面もあります。
『債務免除』の基準がおかしい
契約内容を完了できなくなる場合というのがあります。この場合、どちらにとっても、もうどうしようもありません。
さて、残っている支払いはどうなるでしょうか?残っている商品の受け渡しをどうなるでしょうか?
契約書を出す側としては、自分に有利に、「債務が残らない」ように、「損害培養請求されない」ように、上手に契約書を作っておくことになります。
判断基準がおかしい
何かトラブルが起きたとき、その判断基準がどうなっているかということも、必ずチェックしなければなりません。
悪意のある契約書では、必ずその判断基準が相手側に設定されています。
判断基準が相手側にあるということは、自分に言い分があっても、それが通らなくなる可能性が高いということなのです。
悪質な契約書の文例
悪質な条項の例
- 甲は、契約の履行が不可能になったと判断した場合、契約を解除できるものとする。
このような文章がさりげなく入っていても、知識がなければ何も思わないでしょう。
しかし、このような条項は大問題です。
なぜ、甲だけが判断し、解除できるのでしょうか。このような定め方がされている場合、特殊な契約である場合以外、公平な契約とは言えません。
悪質な条項の改善例
- 甲又は乙は、契約の履行が不可能になったと双方が合意した場合、契約を解除できるものとする。
- 契約の履行が現実に不可能となりながら、双方が合意しない場合には…(以下略)
このように、なるべく公平になるように、変えさせる必要があります。
変えてもらえないなら…
明らかに片方に不利な条項がありながら、それを変えてもらえないのであれば、そんな契約は、結ぶべきではありません。
それでも契約するなんて、それはもう自己責任でしかないのです。
契約前の交渉が非常に重要
多くの人が、契約・契約書に関して、大いに勘違いしています。
大手との契約は変えられない?
大手の会社から提示された契約書については、以下のような認識があると思います。
- 顧問弁護士がついてるから、変な契約書を渡してくるはずはないだろう
- 相手は大手だから、契約書を書き直してくれと言っても、変えてくれないだろう
それは、大きな間違いです。
例えば、不動産の賃貸・売買の契約書なども、まともな人・会社なら、不明な部分、不合理な部分・不公平な部分は、言って変えてもらわなければ、契約なんて、とても結べません。
契約書が変えられない場合はある
契約内容が『定型』であることが求められるような商品・サービスの契約では、交渉しても、契約書の内容を変更してもらえない場合は少なくありません。
そういう場合には、メールによる事前の確認が非常に重要になってきます。
メールによる事前の確認
これは、メールである必要があります。というのも、公の証拠を残すためです。
相手に到達し、相手が認識し、相手がその内容に対して返信したことを、しっかり証拠として残しましょう。
契約内容についてトラブルが起きた際の、大切な判断基準になります。
法理論として認められている『Letter of Intent』
このようなメールでの確認作業によって得られた証拠を、『覚書』『Letter of Intent』と言います。
これで確認された内容は、後から「契約書に書かれていない」とゴネることが難しくなります。
『Letter of Intent』の効果
店舗を出す場合などに、一番トラブルになりやすいのが、店舗の看板です。
「看板の設置はOK」
重要事項説明書に、「看板の設置はOK」である旨が書かれていたとします。
- どんな看板でもOK?
- 空中で越境してもOK?
- ギラギラのネオンを24時間つけていてもOK?
「そこまではどうだろう?」そう思うのではないでしょうか。
「常識の範囲でOKですよ」
この言葉で納得してしまうと、やはり危ないです。
常識の範囲は人によって異なります。だからこそ、「あなたの考える常識は何ですか?」という形で、メールなどで確認しておく必要があります。
やはり『Letter of Intent』が大切
一番安心なのは、想定している看板案の全部を、文書・イラストなどにして相手に送り付けておくことです。
もちろん、お金なんて書ける必要ありません。簡単でいいのです。
相手がOKしたものなら、誤差の範囲であれば、相手が『看板の設置はOK』の中身として合意したものとなるので、文句は言われませんし、文句を言われたら争えます。
さいごに
『看板の設置はOK』の一文ですら、考えることはたくさんあります。
ご自身で契約書を読んでチェックすることは非常に有益ですが、リスクの類型を理解していなければ、なかなか適切に契約相手にメールを送ることも簡単でないでしょう。
だから、大事な契約を結ぶ際には、ぜひ”事前に”ご相談ください。
「困ったら相談させてね」とよく言われますが…
重大な何かを決断する際には、困ってからじゃなくて、事前に相談してください。
契約してからは、『Letter of Intent』なんて準備できないのです。
むしろ、契約してから、「この条項の意味は…」なんてメールを送ったら、契約者間の関係がギクシャクしてしまいます。
だから、もう一度言いますが、 大事な契約を結ぶ際には、ぜひ ”事前に” ご相談ください。